読書日記。『破船』
「ようこそのお運びで。厚く御礼申し上げます。」
読書日記。
読了。
ブクログから。
短いですね。
この物語は実話もとにしているのかどうかわかりませんが、それでも、ひょっとしたら、こういう村、漁村があったかもしれないな、と思ってしまいます。
明治時代のころでしょうか。
基本的には、漁で生計を立てているのですが、しかし…。
この漁村にとって「お船様」という存在。
物語の序盤では、その意味があまりわかりませんが、中盤にさしかかる辺りで、その意味がわかります。
同時に、なんともいえない感じに…。
以下、ネタバレ的な内容なので、注意してください。
結末には触れませんが…。
村人たちが「お船様」と呼ぶもの。
漁村のやや遠い海を航行する船。
穏やかな春・夏は、危険はないですが、秋・冬になると、難破する危険性が高まります。
そして、中には、座礁、難破する船も。
その難破した船から、食糧や家財道具、あるいは、何か役に立ちそうなものを取り出す…。
それは、村の生計を立てるため。
その船にのっていて亡くなった人は、「村のしきたり」で丁重に扱われ、火葬されます。
しかし、単に、悠長に難破する船を待っている訳ではないのです…。
村では難破した船を座礁させるため、岸で火を焚いています。
この火に誘われた船が沈んだところを村民たちは、狙っているのです。
今の時代から考えると、とてもひどい話ですが、それまでの村の描写を読んでいると、生きるためには致し方ないとも思わされてしまいます。
そうした風習や民俗の異様さ、船から奪った積み荷で村人たちが喜びに沸く場面も、そうした当時の生活の厳しさを感じさせられます。
なんともいえない、この人間の「生きる」ための力。
物語は、そういう閉鎖的な漁村の暮らしぶりや、その「お船様」の話、そして、時々、遠くの町に出稼ぎにいった者の話が挟まれ、それらがうまく絡み合いながら進んでいきます。
そして、物語は、ある難破した「お船様」の話へ…。
ここからは、読んで欲しいです。
読み終わった時の、この気持ち。
なんと表現したらいいのでしょうか…。
人間が生きるということは、こんなにも強く、弱く、そして、儚く、一瞬であるのか、と。
吉村昭さんの作品は、いくつか読みましたが、いずれも主観的な視点にならず、客観的な視点で描かれ、会話もできるだけ省いています。
この『破船』もしかり。
感情的な表現は、直接的に描かれないながら、ひしひしと、その村人たちの感情が伝わってきます。
たぶん、読み手それぞれにも、その感情の伝わり方が微妙に違うのではないのでしょうか。
この抑制的な感情表現がよく、厳しい村人の生活をありありと表現しています。
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