読書日記。『「特攻」と日本人』

「ようこそのお運びで。厚く御礼申し上げます。」

読書日記。

読了。
保阪正康『「特攻」と日本人』。

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良書。

読了したのは、猛暑日が続いていた頃。

「8月15日」よりも、もっと前。

8月も上旬。

暑かった夏を思い出す。

そして、この本に登場する多くの「特攻兵」となった方々のことを思い巡らしました。

いわゆる「犬死に論」を否定し、そして、「英雄視」することももちろんなく、ただ、特攻兵が遺した家族への手紙などから、考察しています。

旧日本軍の愚かな作戦。

陸軍や海軍がいかにして、そのような「システム」をつくっていったのか…。

特攻兵が遺した手紙。

そこには、家族、友人、あるいは、恋人などへ送った手紙。あるいは、いつ命令が下されるかわからない中で書かれた日記。

もちろん、軍部の検閲があるので、表だった批判は見られないが、それでも、国家に対する憤りのようなものが書かれている。

そして、戦争が起こっている時代に生き、「特攻」という不条理な運命に対する苦悩…。

読んでいてとても、辛かったです。

今の時代で言えば、大学入学したばかりの若い男性ばかり。

これからの国家を担っていくべき筈の若者。

中には、旧帝大の優秀な学生も多く。

どんな思いで、飛行場から飛び立っていたことだろう…。

あの暑い夏の日に…。

特攻作戦の決定における貧弱な戦略観。

そして、軍部の稚拙な意思決定が、武士道・滅私奉公という「美学」により、責任回避されていく様を解説する。

驚いたのが、あるいは呆れたのは、こういう記述。

多くの上官たちが「俺も後から必ず行くから」と言って、隊員を送り出したが、結局その上官達は見事に裏切り戦後を生きた。

そういう「裏切り行為」だけでなく、「死人に口無し」という諺があるように、隊員は「志願だった」として、事実上志願を強要した自己の責任逃れにまで成功している。

中には、終戦と同時に自決した司令官もいた。

しかし、そういう人はほとんどいない。

これは「あとがき」ある記述。

整備兵の重要な証言だと思うので、少し引用する。

「学徒出陣の特攻機の整備兵（複数）から密かに聞かされた話である。昭和二十年四月以降の特攻作戦では、特攻隊員が搭乗時に失禁する、腰が抜けて立たなくなる、失神してしまうという例は少なくなかったという。それを整備兵たちは抱き起こして無理に操縦席に乗せ飛び立たせたというのだ。」

・・・。

この整備兵の方は、ずっと自責の念にかられている…。

この本を読んで、特攻を美化してはいけない、と。

多くの旧日本軍の稚拙な作戦により、戦争が推敲され、その延長線上にある「特攻」が、立案・遂行され、誰も責任を取らない、つまり、「無責任」という上に成り立っていたということ、そして、「特攻」の隊員は、「国家」という「システム」の犠牲者であることを…。

恥ずかしながら、この本に何度も出てくる「知覧特攻平和会館」を訪れていません。

いつか必ず、できるだけ早く、この施設を訪れたいです。

自分の目で、七十年前の若者が書いた手紙などを読み、その歴史を自分で見たい、と。

そして、二度と同じような愚かなことを日本が起こさないように、と。

しかし、『「特攻」と日本人』を読み終わり、「特攻」に関する思いだけでなく、別の感情も出てきたのも事実。

それは。

現代日本のありよう。

つまり、稚拙な、あるいは、いきあたりばったりの日本政府のありかた、そして、戦後起こった数々の社会的重要な事故、例えば、東電原発事故のような重大事故においても、誰も責任を取らない、うやむやにしてしまう「システム」。

何も変わっていないな、と。

日本社会の根深い「組織」…。

良書でした。

約一ヶ月近く経った今でも、強く心に残っています。

とにかく読んで良かった（そういう表現が適切かどうかわかりませんが）一冊でした。

良書です。

機会があれば、是非読んでください。

「特攻」と日本人 (講談社現代新書)